うつる





 時折、死んだ人間の夢を見る。最悪の目覚めだ。何度瞬きをしても瞼の裏にあいつらの残像が映る。
 亡くなった人間の夢はいい夢という見方もある。もう二度と会うことの叶わない相手との再会は、夢という非現実的な場所でしか起こりえないのだから。それでもこの夢は好きではない。守れなかったものの大きさを、自分の弱さと現実の惨さを思い知らされるようだ。
 深呼吸を繰り返す。一度、二度、三度。ようやく瞼を開け重い体を起き上がらせる。リビングへ続くドアを開ければ、すでにが朝の支度を始めていた。
「あ、おはよ。珍しいね、零がこんなにのんびりしてるの」
 時計を見やれば午前九時。休みといえどこんなに遅く起きることは少ない。
「ああ……」
 答えにならない返事をしながらに近づく。俺を見上げるの唇にキスをして抱きしめた。俺のすがるような腕に気づいたのか、はなだめるように俺の背中に腕を回す。
 そのまま深呼吸を繰り返す。一度、二度、三度。目を閉じれば、瞼の裏に残像が映る。
 夢は死者からの手紙ではない。自分の内面を表す鏡だ。情けないことに、まだ俺の中にあいつらに会いたい気持ちが残っているのだろう。
 が俺の背中を撫でる温かな感触に目を開けた。瞳にの姿が映る。
「悪いな突然」
「ううん」
 は俺の行動に対して深く聞いてはこない。言いたくないだろうことを必要以上に追求しない、のこういうところには非常に助けられている。
「零」
 は俺の名前を呼ぶと、背伸びをしてキスをする。穏やかで温かな唇は、俺を引き留めるようだ。目をつぶってもう一度。瞼の裏に映るのは、夢で見たあいつらの残像。目を開けて瞳に映るのは、笑顔の
「おはよう」
 嫌な夢は、終わりだ。
「ああ、おはよう」
 この笑顔にどれほど救われたことか。
 まだ死者の夢をうまく消化することはできない。それでもあの夢の後にこうやって笑えるのは、のおかげなのだろう。
 死者の夢を、いい夢だったと言える日がいつか来るだろうか。その日が来たら、そのときはシンプルな花束を持って、を連れて墓参りに行こう。











うつる
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21.05.29

twitter@x_ioroi 伊織ろいさんの「言葉パレット」よりお題をお借りしました。ありがとうございました!