零との結婚祝いのひとつとして大学時代の友人から贈られたのはペアの色違いのマグカップ。短い英文が書かれただけの一見シンプルなものだけれど、隣り合わせると取っ手の部分がハートマークになるというカップル仕様だ。なるほど新婚家庭に贈るに相応しいものだろう。
しかし、私と零が使うにはどうなの、だろう。新婚は新婚だけれど付き合い自体は長いのであまり新婚という感覚はない。それに元々私も零もこういうペア物を使う柄ではない。大学時代の付き合って間もない頃もお揃いの物を着たり持ち歩いたりなんてことはしなかった。今更、今更ペア物なんて、ねえ。
そんなことを思いつつも、私がこの家でいつも使うのは元々自分の家で使っていたマグカップではなく、ハートマークの片割れ。いやだって、これは友達からの贈り物だから使うに決まっている。……まあ、これを渡すときの友人の顔はあからさまに面白がっている顔、だったけれど。ペアルックなんて縁遠い私がどんな顔してこれを使うか想像して楽しんでいる顔。からかい好きで軽い性格の彼女らしい表情だった。
とまあ、彼女の思惑はともかくとして、私が普段使いしているのは零とペアのマグカップなのだ。
さて、では肝心の零はと言うと。
「コーヒー飲むか?」
「うん、ありがと」
私も零も休日の昼下がり。昼食の後片づけをしていた零の声に頷くと、零は食器棚からインスタントコーヒーの粉とカップをふたつ取り出した。慣れた手つきで淹れたコーヒーを私に渡す。あの、ペアのマグカップを。
「……」
「どうした?」
私が持っているのはほのかなピンクのカップ、零が持っているのは水色のカップ。零がコーヒーを淹れてくれるとき、彼はいつもこのカップに淹れるのだ。
「……前のカップは使わないの?」
私たちが今住んでいる部屋は零が元々借りていた部屋、当然食器棚には零が以前から持っていたお皿やカップが置いてある。私との結婚前はほとんどこの部屋には帰れていなかったらしいとは言え、使い慣れた自分のカップがあるはずだ。
「そりゃ……貰い物だしな」
「……そう?」
「ああ」
零はマグカップに口をつけた後、テーブルにそれを置いた。私のカップと隣り合うように。カップの取っ手がハートの形を彩るように。
きっとこれが、何よりの答えなのだろう。
私は知っている。友人からの贈り物だと言ってこれを零に渡したとき、「お揃いか」と言った零の表情がほんの少し緩んだこと。ひとりで何かを飲むときも必ずこのカップを使っていること。
「飲まないのか?」
「……飲むよ」
私は一度置いたカップを再び取った。一口だけコーヒーを飲んで、もう一度カップを置く。取っ手はもちろん、先ほどと同じ形になるように。
ふたつ揃えば
←閑話休題03 しるし→
19.09.15