ぎしり、ベッドが軋む音がする。まだ昼間? 時間なんてどうでもいいだろう。今はそういう気分なんだ。
の頬にキスを落とすと、ふわりといい香りがした。首筋を舐め上げれば
が小さく声を漏らす。高いその声は俺の情欲を煽るには十分すぎる。
ひとつひとつ、片手で
のシャツのボタンを外していく。大学時代に無理に外そうとしボタンを飛ばしてしまって「気に入っていたのに!」と怒られたことをふと思い出し、小さな笑いがこみ上げる。もうボタンを飛ばすヘマはしないが、十年たった今もがっつき具合は変わっていない。
零、と
の俺を呼ぶ声が耳に響く。彼女の細い指がシャツの隙間から覗く俺の肌を撫でる。鎖骨の辺りから首筋へ、そして頬へと柔らかな指が動いていく。少しばかりこそばゆく、そしてそそるような感触に、
ももうその気であることが伝わってくる。別に昼間だっていいだろう。今日は休日、予定だってなにもない。誰に迷惑をかけるわけでもない。夫婦の情事が夜だけなんて誰が決めた。
唇にキスを落とす。一回、二回、三回。触れるだけのキスから、次第に深いキスに変わっていく。
の下着に手をかけた、そのとき。
「……」
「……」
「……携帯、鳴ってるよ」
「わかってる」
テーブルの上の仕事用の携帯が盛大に震えている。この振動パターンは着信だ。
大きなため息を吐きながらベッドから降り電話を取った。
「はい。……はい、わかりました」
上からの指示を聞いて息をひとつ吐いた。さて、切り替えだ。
「仕事?」
「ああ。すぐに出る」
「ん、スーツ出すね」
私服のシャツを脱いでYシャツに腕を通す。
から受け取ったスーツを着てネクタイを締めれば見た目はすっかり仕事に行く様相だ。洗面所で簡単に身なりを整えれば電話を受けてから五分でもう向かう支度ができる。
「忘れものない?」
「ああ。今日は帰れても遅くなる」
「ん」
は少し寂しげな表情で視線を下に向けた。彼女の胸元のシャツがまだ半分程度はだけているのに気づいて、両手でボタンを閉めていく。
「悪いな、こんなときに」
「……それを謝られると恥ずかしいんだけど」
「はは」
の言葉に少しばかり張りつめた心が和らぐ。完全に仕事モードになる前のほんの少しの穏やかな時間。
の背中に腕を回して彼女の温もりを感じながら、残り少ないこの時間を味わう。
「続きはまた今度だ」
「……バカ」
「バカってことはないだろ」
「……ん。待ってる」
は背伸びをして、俺は少し屈んでキスをした。先ほどのような情欲のキスではない、触れるだけの甘く温かなキス。
「あんまり待たせないでよ」
「わかってる。行ってくる」
最後にもう一度キスを落とす。寂しいけれどしばしのお別れだ。
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
手を振る
を背にドアを閉める。瞬きをひとつすれば完全に仕事モードだ。
守るべきもののために、今日もまた走り出す。
閑話休題03
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18.07.28
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