教室に定期を忘れたのに気付いたのは駅に着いてから。
面倒だけど今月は金欠だし仕方ない、と学校まで15分の道を引き返した。
「あーあ…」
自分の間抜けっぷりに溜め息を漏らしつつ、特に面白味のない通学路を歩いてく。
入学したての頃はあんなに新鮮だったこの道。いつの間に飽きてしまったのかな。
学校と夕焼けのコントラストも、もう見るのは何度目だろう。
学校に着いて、階段で自分の教室まで上がっていく。
上履きに履き替えるのは面倒だから、靴だけ脱いで、靴下のまま。
今学校にいるのは運動部のグラウンドで走ってる生徒くらいだし、どうせ誰にも会わないだろうし。
なんて高を括っていたら、一番会いたくないやつに会ってしまった。
「さん?」
「は、白馬…」
教室には窓から夕焼けを覗く白馬がいた。なんでこの時間にこいつがいるんだろう。
帰宅部で、学校が終われば「調べ物がある」と言ってあっという間に帰ってしまうのに。
一番靴下姿が見られたくない人に会ってしまった。ああちゃんと上履き履いてくればよかった。
「どうしたんだい?何か忘れ物?」
「え、あ、うん。あの、定期、机の中に忘れちゃったみたいで。白馬は何でまだ帰ってないの?」
「…少し用があってね」
その少し含みのある言い方で何となく察しがついた。
「告白でもされたの?」
「…勘がいいんですね」
勘がいいも何も、教室に一人残った白馬を見れば大抵の生徒はその答えに辿りつくだろう。
白馬が放課後の教室や屋上でよく告白されているということは、有名なんだから。
「何で断っちゃったの?」
「よく断ったってわかるね」
「だって告白OKしといてここに一人で残ってるってことはないでしょ」
「…なるほど、確かに」
「で、何で?」
一応白馬に想いを寄せる一人としては、何で断ったのかは気になるところだ。
今まで白馬に告白してきた子は、可愛い子や美人、ちょっと気弱な子から勝ち気な子といろんなタイプがいたのに、一人もOKしないっていうのは、どうしてなんだろう。
「一度も話したことがない人に付き合ってほしいと言われても、さすがに」
「じゃあ話したことがある子ならいいの?」
「相手にもよりますけど」
相手にもよるって、そこが一番重要なところなんだけど。
そう言いたかったけど、それじゃ好きですと告白しているようなものなのでやめておいた。
「じゃあ、うちのクラスの子とかに告白されたらOKするの?」
「相手にもよりますけど」
「…あ、そう…」
少し探りを入れてみようと思ったのに、同じ答えを繰り返されてしまった。
まあ、一筋縄じゃいかないことぐらいわかってけど。
「…相手にもよるっていうのは、少し語弊があるな」
「?」
「相手にもよるっていうより、さんが告白してくれるなら」
ね?と言って白馬はにっこり笑った。言葉の続きは言わなくても分かる。
そこまで言うなら、自分から言ってくれればいいのに。
そんなことを思いつつ、赤くなった顔を夕焼けのせいにして、呟いた。
「好きだよ」
白馬と一緒に見た帰り道の風景は、いつもよりずっと鮮やかだった。
焼けた空に抱かれるような
08.05.07
title/tv様より