ただ声が聞きたいだけ


「なに?」
「なんでもないよ」



「なに?」
「なんでもないよ」



「なに?」
「なんでもないよ」


さっきからこんなやり取りを何回続けたことか。
ぱっと聞いただけでは恋人同士の甘いやり取りにきこえるかもしれない。
だけどそれは一回や二回であればの話で、こんなに何度も繰り返されると正直うざったい。


「白馬」
「なに?」
「さっきから私の名前呼ぶばっかだけど、何か言いたいことあるの?」
「別に?」

そう言うと白馬は読んでいた本に再び目を落とした。
その横顔はどこか不機嫌そうに見える。やっぱり何か言いたいことがあるんだろうか。
だからといって私はエスパーじゃないんだから、白馬が何を言いたいかなんてわかるはずがない。

何か白馬を怒らせるようなことしたっけ、と自分の行動を振り返ってみたけれど、特に思いつかない。
そもそも白馬は滅多なことでは怒らない(というか怒ってるとこ見たことないかもしれない)ので、どういったことが白馬の琴線に触れるのかがわからない。

今日会ったときから微妙に不機嫌だったから、昨日送ったメールに何か不満でもあったんだろうか。
そう思って自分の携帯を開いたら、待ち受け画面に表示されたカレンダーに何か違和感を感じた。

あれ、今日って何日だっけ…?

「あっ!」
?」

思わず大声を出してしまい、白馬が驚いた顔でこちらを見た。
ああ、そりゃ白馬も不機嫌になるはずだ。

今日は白馬の誕生日じゃないか。

忘れてたわけじゃない。8月29日が白馬の誕生日だって、ちゃんと覚えてた。
だけど、すっかり夏休みでぼけていたらしい私の頭は、今日を「28日」だとすっかり勘違いしていたのだ。
私はいったいどれだけバカなのかと。
白馬だって自分の誕生日だとは言いにくいだろう。


「あの、ごめんなさい」
?」
「誕生日、おめでとうございました…」

申し訳なくて目を合わせられなくて、俯きながらそう言うと、ふっと抱き寄せられた。


「は、はい」
「もう一度言って」
「お、おめでとう…」

安心したように笑う白馬を見て、私もほっとした。
まだまだ後ろめたい気持ちもあるけど、やっぱり笑ってくれるとよかったと思う。

は照れ屋で意地っ張りだから、言ってくれないのかと思ったよ」
「お、おめでとうぐらい言うよ!」
「そうだね」

笑顔で私の頭を撫でると、また私の名前を呼んだ。


「なに?」
「なんでもないよ」
「…ごめんなさい」
「なんで謝るんだい?」
「今日28日だって勘違いしてて。その、忘れてたわけではないんだよ」
「いいよ、別に。ただ、君からおめでとうと言ってもらいたかっただけだから」


「白馬、」
「なに?」
「誕生日、おめでとう」

そう言って、私は白馬に軽くキスをした。
いつもは私からなんてできないけれど、今日は白馬の誕生日で、少し後ろめたい気持ちも手伝って思わずしてしまった。

そうしたら白馬は手で自分の顔を覆って、私から目をそらした。

「白馬?」
「おめでとうって言ってもらうだけでよかったのに、少し、欲が出そうだ」
「?」

さっきより強く私を抱きしめると耳元で小さく囁いた。

「もっと君の声が聴きたいよ」


















ただ声が聞きたいだけ
10.08.29



title/恋したくなるお題様