「この間恵子と青子と買い物に行ったときのことなんだけどね…」
そう言っては取り留めの無い話をしている。
うんうん、と相槌を聞きながらの話に耳を傾ける。
相変わらず仲がいいんだなあ、と思いながら聞いていると、ふと、聞きなれない言葉が聞こえてきた。
いや、言葉と言うべきか固有名詞と言うべきか。
とりあえず、その言葉に僕の心は大きくかき乱されたのだ。
「ごめん、。今のところもう一度言ってくれるかい?」
「え?えっと、その帰り道に快斗に会って…」
「…僕の聞き間違いじゃないみたいだね。、以前は黒羽のことを『快斗』と読んでいた気がしたんだけど?」
自分でも耳を疑ったけれど、確かに<の口から『快斗』という言葉が飛び出した。
と黒羽は全く話さないわけでもないけれど名前で呼び合うほど親しくはない。
なのになぜ、いきなり名前が出てきたんだ。
「あー…青子が快斗快斗って言うからうつったのかなあ」
「…そう」
自分でも驚くほど不機嫌な声だ。
だけど仕方ない。恋人であるはずの僕は名字で呼ばれていて、ただの友人の黒羽が名前で呼ばれているなんて、流石の僕も愛想笑いをする余裕もない。
「…白馬?あの、何か不機嫌?」
「…理由くらい、わかるだろう?」
「う…」
こんなに嫉妬するなんて我ながら醜いと思うけれど、感情のコントロールができるほど大人じゃない。
常日頃から自分のことを名前で呼んで欲しいと思っていたときにこの仕打ちでは、ショックは大きい。
「あの、白馬、もう呼ばないようにするから」
「…ストップ」
「え?」
「…快斗って呼んでもいい。その代わり、僕のことを名前で呼んでくれる?」
はキョトンとした顔で僕を見つめてくる。
いきなりだったか。でも僕としてはいつも思っていたことで、まったくいきなりってわけではない。
「…さ」
「……」
「………やっぱり無理!無理です!普通に黒羽って呼ぶし白馬って呼ぶので勘弁して!」
「どうして黒羽のことはあんなにあっさり呼べたのに僕は呼べないんだい?」
「だ、だってそれは…」
「だって?」
「…好きな人の名前呼ぶのと、そうじゃない人じゃあ、意味が全然違うじゃない」
真っ赤な顔でそう言ったの顔が可愛くて、僕は思わず下を向いてうなだれた。
「…は、白馬?」
「…しょうがないなあ…」
本当は今でも名前で呼んで欲しいけど、
さっきの言葉が嬉しくて、赤くなった顔が可愛くて、今はそれで満足してしまったじゃないか。
執行猶予はどのくらい?
10.06.11