「…、何やってんの」
「念力送ってるの」
「誰に」
「白馬くんに」
「バカでしょ」
隣の席の友だちにそう言われたけれど私は構わず白馬くんに「こっち向いて!」という念力を送り続けてる。教科書を立てて隠れるように、カメハメハのポーズで。確かに傍から見ればとても変な子に見えるだろう。まぁ、授業中に念力送るなんて私くらいしかやらないだろう。でも!それだけ白馬くんにこっちを向いてほしいってことだ。だって白馬くんは私からしてみれば同じクラスでも話したことのない、遠い遠い存在なわけで、顔を見るにもこうやって地道に努力するしかないのだ。って、努力が念力かよ!って突っ込まれそうだけど授業中に私が出来る精一杯の努力はこれしかない。そりゃ、普通の学校生活の中でだったら「おはよう!」でも「次の授業なんだっけ?」とか話しかけようもあるけど、授業中ではそうはいかない。授業中に顔を見ようと思うなら「白馬くん!こっちを向いて!」と念力を送るしかない。それに実際、クラスメイトだからと言ってそう簡単にじっくり彼の顔を見る機会は少ない。みんなよく考えて!仲良くもないクラスメイトの顔を、休み時間とか、まぁいつでもいいんだけど、とりあえずほとんど話したこともないようなクラスメイトの顔なんてじっくり見れるものじゃないでしょ?だからこういうちょっとした時間に、少しでも彼の顔を見れるように努力してるのだ。ちなみに私はいつだって真剣です。
「こっち見てくれないね」
「いい加減念力やめたら?」
「やめない!こっち向いてくれるまで!」
「それより授業に集中しなよ」
「白馬くんはきっと授業に集中してるんだね…だからこっち向いてくれないんだね…」
「…そうだね」
諦めたように友だちはため息をついた。だけれども誰にも私のこの念力はやめさせられない。絶対にやめてなるものか!諦めたら負けだ!そう言い聞かせてずっと念力を送っていた。こっちを向いて!白馬くん!…ってあああああ!
「ちょ、ちょ、ねえ!」
「何?あんた念力はどうしたの?」
「い、今白馬くんがこっち向いた!」
「あーそう、念力通じたんだ。よかったね」
明らかに棒読みだったけど私にとってそんなことどうでもいい。白馬くんが!白馬くんがこっち向いてくれたんだよ!きゃああああ私死んでもいい!いや、まだ死にたくないけど!うわああああどうしよう白馬くん!別に私のこと見たわけじゃないかもしれないけど!ただ単に後ろ向いただけかもしれないけど!嬉しいよ!どうしよう!
とかそんなことを考えてるうちに授業終了のチャイム。がたがたとみんな席を立って友だちのところに行ったりトイレに行ったりしてるけど私はこの場から動けない。だってだってだって白馬くんと目が合ったんだよ?天にも昇る気持ちってこういうことかしら。
「さん」
「ん?何?……って白馬くん!?」
ほやーっと、いや、ぽわんとした気持ちに浸っていたら、なんと、いつの間に来てたのやら、白馬くんが目の前にいた。あ、やばい。超慌ててる私。
「落ち着いて、どうしたんですか?」
「いや、どうしたって、あの、その、白馬くんが話しかけたんじゃ…」
「ああ、そうでした。少し気になったことがあって…」
「き、気になったこと?」
わ、どうしよう。私白馬くんになんかしたっけ。いや、今日はとりあえず朝おはようって言ったのとさっきの授業でひたすら念力を送ってたことくらいだ。わ、もしかして念力がばれた!?
「授業中、ずっと君がこちらを見てたような気がしてたのですが…」
うぎゃあああ!ばれてた!どどどどうしようお母さん!って今お母さんに頼っても仕方ないけど!
「あれは気のせいなんでしょうか?」
「ききき気のせいじゃありません!ごめんなさい!」
「そう、よかった」
「…え、よかった?」
「うん。気のせいじゃなくてよかったです」
「えーと、それはどういう意味で…?」
「もちろん、嬉しいってことですよ」
え、え、それは、その、嬉しいって、私が勝手にいい方に解釈しちゃっても構わないんでしょうか。とかなんだか混乱してしまって、私は返事はおろか動くこともままならなくなっている。うわあ頭の中ピンク色だよ、だって今まで一言二言くらいしか話したことないのに。
そんな緊張してる私をよそに、白馬くんは私の手を取って、その甲にキスをした。
「姫君の許可が頂ければ、これからは僕もあなたのことを見つめていたいのですが、よろしいでしょうか?」
白馬くんここ教室だよ何やってるのていうか何言ってるのとか突っ込みたいことはたくさんあるはずなのに何も言えない。やばい頭の中ピンクどころか三途の川渡っちゃったかも!
臨界点突破!
07.09.08