夏の軌跡

「花火しようよ!」

突然家に来たかと思ったら、はいきなり手持ち花火とバケツを提げてそう言った。

「花火?」
「そう、花火。探花火とかあんまりしたことないでしょ?」

確かに、花火なんてあんまりどころか一度もしたことがない。

「いきなり花火したくなっちゃってさ、1人でやってもつまらないし一緒にやろうよ」

にっこり笑いながらは言う。
今日は特に用事もないし、僕もに会いたかったからいいけれど、「1人でやってもつまならい」ではなく、「一緒にやりたかったの!」くらい言ってくれたらなあ、と少し思った。




「近くに花火OKの公園があるから」
そう言うに手を引かれ、少し大きめの公園にやってきた。
バケツに水を汲み、さっそく花火に火をつけてみる。
正直こんな小さな花火なんて、と思っていたが、思ったよりずっと鮮やかだ。

「花火、綺麗でしょ?」
「そうだね。今までやらなかったの、少しもったいなかったかな」
「花火したことないなんて、人生の半分くらい損してるよ?」
「…そんなに?」

もただその場の雰囲気で言っただけだと思うけど、楽しそうに笑うを見てると本当に半分損したかな、と思えるから不思議だ。

「花火も綺麗だけどのほうが綺麗だよ」
「言うと思った」
「…もう前みたいに照れてくれないんだね」
「だって、どのくらい付き合ってると思ってるの。もう慣れちゃったよ」
の赤くなった顔が好きだったんだけどな」
「他の顔は好きじゃないの?」

思いもしない返しに驚いていたら、の持っていた花火の火が消え、何も言えないままはバケツのほうへ歩いていってしまった。
これじゃ他の顔は好きじゃないみたいだと少し焦っていたら、が「次は線香花火ね!」と笑いかけてきた。

、」
「わかってるよー。『他の顔も可愛いよ』でしょ?」
「…まあ、そうだけど」

なんだか今日はやたらが一枚上手だ。
少し悔しいかな、と思いつつたまにはこんな日もいいかなと思う。

「ああでも」
「?」
「今は、花火の光に照らされてるが一番可愛いと思うよ」
「じゃあ、ずっと花火してようかな」


ふふっと笑うの顔は綺麗で、
確かに今まで花火をしてなかったのは損をしていたんだなと思った。














夏の軌跡
10.08.11